スポンサー広告 (--.--.--)
憑かされ物で書いた店長でもう一つ話がある。
もう五年は彼女がいないと店長がある日嘆いていた。
そこまで年収があるわけではなかったが、年の割に若く見える長身のそこそこ男前の人だったので不思議といえば不思議だった。
各地を転々とする職だから出会いがないわけでもないと思う。
「憑かれてるんじゃないですか?」
冗談で言う僕に店長は「わかってるんですよ……」とまさか肯定を始めた。
転勤が決まってそれを機に別れた元彼女がいるらしいのだが、それが原因だとまるで確証を持ったように話し始める。
実は転勤がどうの……の最もたる理由は口実で、他に別れたい理由があったらしいのだがそれは、それ。
どうもそれから女運が悪いと感じていたらしい。
ある日、携帯で暇つぶしにしていたゲーム特化型のSNSで知り合った女性と懇意になった。
ただ、場所が大分離れているので実際に会うのは難しい。
今度の転勤に相手方近くの店舗を希望地域として出してみようかなどと考えていたころ、仕切りにその女性からメールが届くようになった。
内容はと言えば「電話してもいい?」で、悪いは気はしないものの、なにかと電話が出来る状態ではなかったらしく中々実現にいたらない。
そこからしばらくして休日に買い物に出かけたさいのことだ。
買い物も済ませ、なんとなく駐車場で一人、車に乗り込んでボーっとしていた。
ふと見ると目の前にある車用の芳香剤が変に感じる。
芳香剤のフタ付近に妙なリングが掛けられている。
最初は買った時からついていたアクセサリーかと思ったが、どうにも違う。
指輪だ。
なんでこんなものが……と少し怖く思うと、電話が鳴る。
「もしもし……?」
タイミングに驚いて慌てて電話に出ると相手はSNSで知り合ったその女性だ。
やっとの思いで初めて直に話せる喜びと、一人で怖い思いをし始めた丁度その時の喜びにメールもなしで突然かかった電話に気を悪くすることもなかった。
「女運悪いでしょ?」
改めて行う自己紹介もそこそこに突然、そんなことを店長は言われた。
ただ、SNSの中で霊感があるもの同士が集うコミュニテイで知り合った仲だったので不思議ではなかった。
「うん……まぁ、大体予想はつくけどね」
少し強がってそんな風に答えたという。相手の霊能力を疑ってかかったところもあるのだろう。
「指輪」
「え?」
「指輪あるでしょ。今、目の前に」
「あ……」
正直、驚いたという。
"なにか目の前にない?"と聞かれたのならそこまで驚いていなかっただろう。
「ある」と答えれば「それは何?」と続き、「それが原因」とこうなる。
インチキ占い師や霊能力者がよく使うコールド・リーディングというもので誘導尋問の延長線上にあるような安っぽい心理学的テクニックだ。
ところがその女性は店長からなにも聞き出すことなく自分発信で指輪の存在を言い当てた。
「触らない……っ!!」
店長が携帯電話を耳に当てたまま、指輪に手を伸ばした矢先。電話口から強い口調がとどろいた。
―――――――――― 。
しばらくの沈黙の後、もう大丈夫と言われたという。
「大丈夫ってなにが……?」
「私のとこ来たから。凄い怒ってるけど」
要約するとその女性が店長に憑りつく元彼女の生霊を自分の元へと引き寄せたのだという。
「……この指輪って」
「元カノがまだ付き合ってる時に守ってもらおうと思ってコッソリ差し込んだらしいよ。香水? それ?」
「いや、車の……芳香剤の。これどうしたら」
「あぁ、もう捨てちゃいな」
そんなとんでもな会話が飛び交う中でふと前方に女性が立っているのが見えた。
顔だけがどんどん大きくなってこちらに向かって来る。
緩やかに、それでも徐々に伸びがあるような気味の悪い加速はあっという間で……
ついにはフロントガラスをスッ……と突き抜けて店長の目と鼻の先に近づいた。
元彼女に見える。
「こっち来た……」
震えながら受話器越しに店長は小さく伝えた。
その瞬間、ぼんやりと立ちくらみのように目の前が薄ぼやけて異形な元彼女は消えた。
「後部座席でしょ?」
電話口から帰って来る答えに慌てて後ろを振り返ると異様に頭の大きな元彼女が座ってこっちを見ている。
「うん、後ろいる。座って……」
「指輪捨てられる状態になったら言って。私がまたこっちに呼ぶから」
そんな女性の言葉を受けて店長は車を発進させて
何回か書いたが生霊というのは"なにかが自分に向けられている"と感じることで効力を発揮するものらしい。
それが発信源が無意識であれ、実は発信源などあろうが、なかろうが第一条件はそこだという。
その女性も同じことを言ったらしく、店長がそれを認識した瞬間に霊感の強い店長はその姿を実際に見てしまったというのだ。
「本能的に弱い霊は普段、見えないようにしてるだけだよ」
憑かされ物で書いた店長の体質はこの時、この女性によって教えられた。
「凄いですねぇ、その女性(ひと)。本物じゃないですか? 付き合ったんですか?」
興味津々に続きを聞きたがる僕に店長は首を振った。
「しばらくして一回、メール入ったきり」
「前の女に憑かれるような悪い男性(ひと)とは関係持ちたくありません! みたいな感じですか?」
細い目で睨むように僕を横目に見る店長はこう言った。
「私には無理。これ(元彼女の生霊)はそっちに返すから二度と連絡しないで」
もやもやが残る話 (2011.08.27)
はざ間 - 恐怖・不思議体験備忘録
某
pc.is04sub@gmail.com
コンテンツの無断使用・掲載・転載・改編禁止